著者
古川 真由 有村 達之
出版者
九州ルーテル学院大学人文学部心理臨床学科
雑誌
心理・教育・福祉研究 : 紀要論文集 = Japanese journal of psychology, education and culture
巻号頁・発行日
no.20, pp.85-94, 2021-03-31

児童虐待が成人後の痛み体験と関連することが近年報告されている。本研究では大学生を対象に児童虐待の一側面であるネグレクトの体験と痛み体験との関連性について調査を行った。方法:80名の大学生が年齢,性別,痛みの罹病期間,子供時代のネグレクト体験,痛み強度,痛みの感覚的側面,感情的側面,痛みによる生活障害,抑うつ,不安,痛みの破局化についての質問紙調査に参加した。結果:ネグレクト体験は痛み強度,痛みの感覚的側面,感情的側面と有意に相関していた。これらの関連は人口統計学的変数および痛みの破局化をコントロールした後も有意であった。しかし,ネグレクト体験と痛みの生活障害との関連は,人口統計学的変数と痛み強度,痛みの破局化をコントロールした後では有意でなくなった。ネグレクト体験は抑うつおよび不安とは関連していなかった。結論:これらの知見は( 1 )子供時代のネグレクト体験が大学生の痛み体験に影響する可能性,( 2 )ネグレクト体験と痛みによる生活障害の間の関連性を痛み強度が媒介する可能性を示唆している。
著者
石坂 昌子
出版者
九州ルーテル学院大学人文学部心理臨床学科
雑誌
心理・教育・福祉研究 : 紀要論文集 = Japanese journal of psychology, education and culture
巻号頁・発行日
no.20, pp.45-53, 2021-03-31

本研究では,看護職の死の意味づけとバーンアウトの関連について,看護経験年数による比較を通して検討した。看護師153名を対象として質問紙調査を実施し,看護経験年数によって3群に分類し,重回帰分析を行った。その結果,経験年数が最も短い看護職では,死の肯定的な意味づけは,情緒的消耗感とバーンアウト全体を低下させ個人的達成感を高める傾向が示唆された。また,経験年数が最も長い看護職では,死の肯定的な意味づけは個人的達成感を高めてバーンアウト全体を低下させる傾向のみならず,死を忌避する意味づけは情緒的消耗感を高める一方で,死を苦難から解放する手段として捉える意味づけは脱人格化を和らげる傾向が示唆された。以上のことから,看護職の死の有意義さを見出すという肯定的な意味づけは,特に,仕事の成果に伴う達成感を高め,バーンアウトの予防になることが推測される。死別体験を重ねながら看護を続けていくにはある程度,死と心理的な距離をとることのできる柔軟性や,「距離」のアンビバレンスに耐えうる力が求められるだろう。